不動産売買の前に知っておきたいこと~マンションの登記と権利証・登記識別情報
戸建てとマンションの登記は同じ?
不動産登記記録では、原則として土地と建物は別々の不動産として扱われます。
建物は土地の上に建つもので、土地に対して何も権限がないのに勝手に建てるわけにはいきません。土地を自分で所有したり、土地の所有者から借りたりして建物を建てることになります。これは、土地と建物が別々の不動産だと定められているため、土地と建物それぞれに別の権利が存在するからです。したがって、別々に処分(夫が土地建物とも所有しているところ、建物だけを妻に贈与する等)をすることができます。
マンション(「区分建物」と言います)の場合には建物は部屋ごとに「家屋番号」が付されて、家屋番号ごとに登記記録が編成されて、所有者や担保について記録されていきます。土地は建物とは別々の不動産であるため、原則的には建物とは別に記録します。以前は原則通り、土地は土地で別々に記録していたのですが、大型のマンションが増えてきて、マンションの所有者が多数になると、登記記録は膨大で、複雑かつ難解なものになってしまいました。
そこで、マンションの権利移動は土地と建物がセットで動くことが多いため、マンションの場合は特別に土地と建物はセットで同一の移動でなければならないこととし、建物の登記記録を見れば土地の記録は見なくてもよいように改正されました。この土地と建物がセットになって登録されている権利の形態を「敷地権」と言います。
建物の登記記録には敷地権となった土地の地番と権限(所有権か借地権かなど)が記録され、土地の登記記録にはどこのマンションとセットで動く敷地権になったのかがわかるように表示されています。
権利証・登記識別情報とは
現代の「権利証」は、以前は「登記済証」のことを指していました。文字通り「登記が済んだ証」です。法務局に登記を申請すると、法務局が登記完了の証印を押して返してくれていたのでこの名がつきました。その後IT化の流れを受け、平成17年以降、順次準備が整った法務局から登記済証を廃止し、登記が完了したら「登記識別情報」を権利者に交付することになりました。
ドラマ等で「権利証を悪い人に取られたから権利を失ってしまった」という設定のものをみることがありますが、今ではありえません。昔は「地権証(地券)」が発行されたことがあり、地権証の所有イコール権利の所有という時代がありました。しかし、今では証書と権利の異動は全く関係がありません。権利証だけを取られたり失くしたりしても、権利がなくなることはないので安心してください。
登記識別情報は、不動産ごと、権利者ごとに一つずつ交付されます。一つの不動産でも所有者が二人いれば、二つの登記識別情報が交付されます。登記識別情報は12桁の記号番号で構成されたもので、同じ組み合わせのものはありません。再発行されないので保管には注意が必要です。原則、「情報通知書」という紙で、法務局からシール等で目隠しされた状態で交付されます。
登記済証は「もの」なので手元に保管しておけば安心できましたが、登記識別情報は「情報」です。手元に保管していても、中身の情報が流出してしまえば保管の意味がありません。シールは剥がさないでそのままにしておき、もし識別情報の中身がわかっても必要なとき以外には誰にも教えないことが重要です。
登記済証の時代には、一度に申請した不動産全てが、一つの登記済証となっていたました。「山や田んぼを父から相続したが、そのうちの田んぼ一枚だけを売りたい」という場合のように、たくさんの不動産の一部だけを売るときでも、他の不動産が記載されているものを提供しなければならず、不安を持たれる方がいました。登記識別情報は、不動産ごと、所有者ごとに一つずつです。必要なものだけを提供すればよいため、所有者は安心できます。
また、「権利証」とは登記済証のことだけを言い、登記識別情報とは分けて表されることもあります。制度改正に際して「権利証がなくなる」と話題になった名残だと思われますが、それが何を指しているのか注意が必要です。
現在、いわゆる「権利証」は、「権利証を持っているから所有者である」と証明するものではありません。「大事なものなので、保管している人が正当な所有者であろう」と推測できる、不動産登記の際の添付書類として確認するための資料に過ぎないのです。
監修:齋藤祥文
資格:不動産コンサルティングマスター・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士